ご遺族に寄り添いながら葬儀単価の下落をカバーする「葬儀後サポート」事業とは?
コロナ禍でも安定して収益性を向上させられる、葬儀後サポートビジネスの〝新常識〟
文・小野寺秀友
エピローグコンサルティング株式会社代表取締役
一般社団法人マンダラエンディングノート普及協会 代表理事
株式会社アーバンフューネスコーポレーションにて、葬儀の現場担当を経てアフターサポート部門を立ち上げる。サポート件数は約2,000件。また生前相談も約600件を行う。
その後葬儀社サポートとして人材研修やセミナー開催、集客戦略のコンサルティングをするため エピローグコンサルティング株式会社を設立。現在はJA葬祭をはじめ、全国の葬儀社向けにコンサルティング・研修を行なっている。
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下落の傾向が止まらない葬儀単価。その対抗策とは……
公正取引委員会が2018年3月に出した報告書では「今後増える葬儀のスタイル」で、多くの事業者が小規模なものを挙げました。近しい人だけでの「家族葬」が51%、火葬だけで済ませる「直葬」が26%。従来型の「一般葬」が増えると答えたのはわずか5%でした。
葬儀の簡素化に伴い、葬儀単価は下落しています。
1件当たりにかける費用(平均売上高)は2016年で142万円(経済産業省の統計から算出)。10年前に比べて10万円近く下がっています。
このため、多くの葬儀社が葬儀物販の強化や葬儀周辺事業の紹介などといった単価アップ施策に取り組んでいますが、いまいち成果が出づらく苦戦されている葬儀社も多いようです。
そんな状況の中、顧客満足度を高めながら葬儀単価のアップも図ることができる、ある手法が注目され始めています。
それは、「葬儀後のサポート事業」です。
「サポートならすでにやっている」という葬儀社様も多いことでしょう。
しかし、この葬儀後サポートを上手に仕組み化していくことで、ただのアフターサポートが、顧客に寄り添いながら葬儀単価を確実に上げていくことのできる手法に生まれ変わります。
そこでこの記事では、「葬儀後サポート」とはどんなものなのか、また葬儀社が葬儀後サポートを事業として取り入れる際に注意すべき3つのポイントについてお伝えします。
そもそも「葬儀後サポート」とは?
葬儀から四十九日までの間、ご遺族は慣れないことに取り組まねばならない状況が続いていきます。そんな状況下でのご遺族のニーズには「不安を取り除いてほしい」という情緒的なものが大きいでしょう。
例えば四十九日を迎えるにあたってお墓のことやマナーなどを知っておかなければいけません。自分の田舎の風習とどう違うかと悩まれる方が多いです。こうした知識についてサポートしていきます。
もう一つは、手続きの部分です。不動産の登記変更や、相続手続き、住民票に関するものなど、亡くなった後には様々な手続きがあります。そういった部分もこちらから見つけてサポートをします。
イベントごとは続きますが、その間ご遺族は「私たちの気持ちに寄り添ってもらいたい」という思いを常に持たれています。
葬儀後もご遺族に寄り添い、業者とご遺族の間に立ってサポートを行いながら、必要な商品・サービスを提供していくのが「葬儀後サポート」です。この中で……
●葬儀の返礼品などを自社の商品として販売する
●不動産の登記変更や、相続手続き、住民票に関するものなど、様々な手続きを仲介または代行する
ここをきちんと仕組み化していくことで、この収益のみで十分に費用対効果を満たす形にすることができます。
しかし、「うちはすでにアフターサポートをやっています」とおっしゃっている葬儀社でも、現状を拝見すると残念ながらこれがうまくできていない葬儀社がほとんどです。なぜでしょうか?
その実態を見ていくと……
●ご遺族本位で丁寧にサポートをしているが、売上が度外視になっている。
●アフターサービスは行なっているが、特に管理していないため売上につながっているかが不明瞭。
という状況を目にします。
これには、葬儀社の抱える組織カルチャーも起因していると考えています。
多くの葬儀社は組織カルチャーとして、電話がかかって来たら数時間で50万円~200万円程度の契約を結び、1週間以内に回収まで持っていってしまう……という短期勝負のスピード感が根強く存在します。
そのため、数カ月にわたるような長期勝負には慣れていない葬儀社がほとんどです。
だから、サポートで売上を上げていく、という感覚にはなりづらいのです。
このポイントをしっかり仕組み化することができれば、サポートを事業として独立させ、葬儀単価を10%あげることも現実的に可能になるのです。
葬儀後サポートを事業として取り入れるための、3つの大事なポイント
では、葬儀後サポートを事業として取り入れていくために、大事なポイントをこれから3つお伝えします。
ポイント① 数値を計測し、仕組み化を取り入れる
葬儀後サポートを、ただのサポートではなく事業として安定的に回していくためには、
●どれくらいのリソース(人員、時間、金額)を投入したか
●100件の施行のうち、何件のサポート成約が取れたか
●サポートの売上単価はどのくらいか
などといった数値をしっかり計測し、売上と経費を把握していく必要があります。
その上で、施行件数に対して何件訪問できたのか、そのうちの成約が何件かという数値的目標を設定し、そのオペレーションをマネジメントしていくことで、社員のアクションの結果が分かりやすく、またサービスとして崩れにくい構造が出来上がります。
また現場スタッフの教育と運用に関しても、マニュアルを整備し、継続的に回っていくように仕組化・体系化までをきちんと整え、お客様へのサービスを一定の品質まで高めていくことが大事です。
ポイント② 施行の満足度を確認し、改善する
そもそも葬儀に限らず、世の中にあるアフターサポートは何のためにやっているのでしょうか?
これには理由が二つあります。
ひとつはもちろんお客様のためです。
もうひとつは、販売主のためでもあります。
たとえば、買った商品が壊れた時にアフターサポートを行うことによって、お客様にとっては壊れたものをすぐに修繕してくれることや、保証期間内なら修理費がタダになるということがメリットになります。
一方企業側にしてみれば、どこが壊れたのかが分かること、壊れた箇所の改善につながるというのがメリットです。これが、商品の品質向上につながり、ひいては顧客満足度アップに繋がっていきます。
葬儀では、数日間で何百万というお金が動いているにも関わらず、葬儀が終わった後にお客様と接触することもほとんどなく、提供したサービスの良かった・悪かったという点も確認しないまま次の葬儀に入っていくというところがあり、サービスが向上しているとは言い難い状況があります。
だからこそ、お客様からのフィードバックを得て品質向上・顧客満足度アップを図っていくためにも葬儀後のサポートが大事なのです。特に、今はネットなどですぐに評判が書き込まれてしまう時代です。こうしたサポートやフィードバックが、長期的な営業力の強化につながっていきます。
ポイント③ 担当者任せにせず、全社で取り組む
これは、私が多くの葬儀社でアフターサポートの研修をしてきた中で、成否を分けるもっとも大事なポイントだと考えています。
そのポイントとは、全社で葬儀後サポートに関する情報を共有できる仕組みを作ることです。
しかし、葬儀社の多くが、こういうことを言います。
「アフターサポートは担当者がやればいい」
「担当者を別に置いて、人を雇えばいいのか」
こうした担当者任せのやり方では、残念ながらうまくいきません。
全社での取り組みや教育が必要なのです。
たとえば、理念の共有です。アフターサポートはそもそも何のためにやるかを全員が把握していることが、現場レベルではとても大事です。
顧客情報の共有も重要です。サポートがうまくいっている葬儀社では、顧客情報を社員間でお互いにやりとりし、場合によってはそれぞれ得意な社員がサポートしていく、という体制を取って成果を上げています。
実際に葬儀後サポートを取り入れているスタッフの方の反応は…?
ここまで葬儀後サポートのポイントについてお話ししましたが、普段の施行とは違う領域の業務となるため、なかなかイメージが湧きづらいという意見をいただきます。
そこで、葬儀後サポートの研修を受け、現在サポート業務に当たられている方が実際どのように感じているのか、その声をいくつかご紹介します。
(取材ご協力・メモリー葬祭別邸八橋様。写真は研修中の様子)
ヒラサワさん
(葬儀後サポートを知ることで)明らかに意識が変わりますね。今まで(本来は売上として取れるはずなのに)流れていた「もったいない」に気付かされたと言うか。知っているに人はビジネスちゃんとして捉えられていた案件だったと言うことを、私たち自身が気づいていませんでした。
自分なりにどうすれば売上が上がるかと言う部分で、顧客のニーズを見つけて引っ張ろうと言う意識は持っていたのですが、みんなの意識をひとつにまとめてやるということの重要性に気づきました。1人のスタンドプレーではなく、みんなでやることの意識がつきました。社員同士がお互いの案件でも助け合うようになりました。
ヤマザキさん
正直に言うと、葬儀社の仕事というのは葬儀までだと思って葬儀社に入社しましたが、葬儀後サポートに取り組むようになって気づきが大きく広がっています。
高齢者の社会がどんどん進展している中で、住宅のことや相続のことなど、高齢者を支援していくというニーズが、葬儀の前のこと、葬儀以降のこと、いろんなところにあるのだなと気づき、自分の仕事のやりがいが引き出されました。
カトウさん
最近は家族葬で人数も少なくなったり、火葬で終わりというのも多くなっている。葬儀だけでいえば先細りになっていく。葬儀後サポートのことを知る中で、実は葬儀だけではなくてそのほかにもいろんな形で収益を上げられる方法があるよ、という気づきをいただきました。それがアフターサポートなんです。
自分のやっている仕事はシニアの支援事業だっていうふうに、幅が広い見方ができるようになってきています。サポートを知るまでは、仕事は葬儀の施工のところだけだったんですが、今はそれ以上に大事な部分があるんだなということを教わっています。
最後に
この記事でご案内した通り、「葬儀後サポート」は、
- ご遺族に寄り添ってサポートを行い、
- 葬儀単価下落の問題を解決する
という、お客様と葬儀社どちらの立場からも、これから大きく求められるサービスとなると考えています。
手続きや葬儀だけに頼らず、ご遺族に寄り添い、業者とご遺族の間に立ってサポートをすることができる人材や葬儀社が、これから全国に大きく増えていくことでしょう。そのためには早めの取り組みがカギとなります。
今回お伝えしたお話が、「葬儀後サポート」の視点から施行業務全体の見直しをしていくきっかけとなれば幸いです。
筆者プロフィール
小野寺秀友(おのでら ひでとも)
エピローグコンサルティング株式会社代表取締役
一般社団法人マンダラエンディングノート普及協会 代表理事
株式会社アーバンフューネスコーポレーションにて、葬儀の現場担当を経てアフターサポート部門を立ち上げる。サポート件数は約2,000件。また生前相談も約600件を行い、2014年にアフターサポートのアウトソーシング化を築くために、 司法書士法人トリニティグループで株式会社トリニティ総研取締役に就任。
その後葬儀社向けの人材研修やセミナー開催、集客戦略のコンサルティングをするため エピローグコンサルティング株式会社を設立。現在はJA葬祭をはじめ、全国の葬儀社向けに葬儀後サポートを導入するコンサルティング・研修を行うほか、各種メディアで葬儀後サポートの重要性を訴えている。